先日発表させていただきました俺の2012年・映画ランキングにおきまして第1位の栄冠を勝ちとられました「桐島、部活やめるってよ」が、日田リベルテで上映されておりましたので、この栄光を祝しまして表敬訪問させて頂かねばなるまい!ねばねばなるまい!と2回意気込んで行って参りました。
ちなみに僕が『桐島~』を観るのはこれが3回目です。
お店の中に入るとこんな感じで雑貨屋さんテイスト。可愛い雑貨やCD、濃厚な書籍がズラリ。良い感じのお店でしょ?この奥に60席ほどの小さな劇場があって「なんか学校の視聴覚室みたい!」って思ってたら、上映開始の合図が「キーンコーンカーンコーン・・・」って学校のチャイム音でビックリしました。可愛いから許す!
日田リベルテで感動したのは、映画館の座席に折りたたみ式のテーブルが付いてて、映画が始まる直前に、自分が座ってる席まで飲み物を持ってきてくれる事。ホットカフェオレ頼んだら可愛いマグカップで来たのも嬉しかった。
ひじかけからテーブルにトランスフォーム!
で。せっかくなんで桐島の感想を。
映画「桐島、部活やめるってよ」公式サイト
最初は原作未読の状態で観に行ったんですけど、映画を観て、これはちょっと事件だと思いまして、急いで本屋さんに駆け込んで文庫を買いました。それくらい良い!この映画に登場する全ての高校生達が「それでもこの世界で生きていかなければならない」ゆえに青春を爆発させていましたよ。眩しくてたまらんかった!
始めに結論から言いますけど、この映画は本当に日本映画史に残ると断言できます。特に学園モノというジャンルにおいては、「桐島前・桐島後」というふうに、必ず比較対象として引き合いに出されるでしょう。
キャスティングが全員かなり素晴らしく、演技は勿論なんですが、特筆すべきは、顔!
余計な演出しなくても、その登場人物がどんな奴なのかは顔が物語ってるという。
主人公である映画部の前田くん。かわいらしくて愛すべきボンクラでした。モテなさそうだけど見てて気持ち悪いほどじゃない、みたいなバランスが絶妙ですね。どこが悪い訳でもないんだけど極端にセックスアピールが無いんですよね。
映画部の同級生・武文(前野朋哉)とのやりとりがいちいち最高です。
じつは武文役の前野朋哉くんは、俳優としての活動しつつ映画監督でもあって、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭のオフシアター・コンペティション部門で審査員特別賞とシネガーアワードを受賞してたり、あのジョニー・トーからも将来を有望視されるほどの手腕の持ち主なんですよ。
彼の監督作品の予告編を貼っておきます。
バトミントン部のかすみちゃん(橋本愛)。
「あれ?もしかして俺たち結構趣味合う?」と思ったのも束の間、
実際そうでもねえ時のあの息苦しさが見事に描かれていて悶絶しました。
沙奈(松岡茉優)。クラスの同調圧力における悪の枢軸のごとき女子。俺達がムカつきたい女子とでも申しましょうか、
女の腐ったような女をじっくり熟成させてさらに腐らせたような女で、よくある「女の子同士のメンドくさいアレ」を類稀なる演技力で見せてくれます。演技が自然すぎて
「この子、ホントにこういう奴なんじゃないのか?」と思えるほど松岡茉優ちゃんにとっては
全く得しない役どころではあるんですが、見事に演じきっていましたね。
学校一のカワイコちゃん・梨沙(山本美月)。美人すぎて
もはやSF。過剰なタテ巻きがいかにも女子高生のやりそうな髪型です。毎日巻いてるうちにだんだん加減が分からなくなってきちゃって、今この状態、みたいな。
吹奏楽部・部長の沢島さん(大後寿々花)。この子の宏樹に対する片想いっぷりに共感する女子が多発している模様。
宏樹が何気なくている窓の外を見つめる沢島さん。こんな1カットで乙女の切ない恋心を表現できるスマートさ!この1カットだけで、彼女が「宏樹クン、今何考えてるのかな?」って想いを巡らせてるのが分かりますもんね。
帰宅部・竜汰(落合モトキ)。俺が高校生の頃なら「は~い!死ねばいいと思いま~す☆」って思ってたであろうキャラ。特にミサンガのシーンは本当に臍を噛み切る思いで殺意を隠せませんでした。
ただ、こういうタイプの調子ぶっこいてる奴にかぎって、世渡り上手というか、挫折しないでスルスル~と人生うまく行くんだよなあ。
帰宅部・友弘(浅香航大)。映画の中で何回もバスケして何回もシュートを打つんですが、なにげに1本も入ってないという。普通1回くらいはまぐれで入るだろ、と言いたくなるほどバスケの神様の降りてこなさには好感が持てます。
男子の制服の着こなしでキャラの描き分けしてるのが上手いんですよ。クラスのイケてる派(運動部系)はネクタイも緩めで着崩してて、イケてない派(文化部)はピシっと真面目に着てる。チャラい派(帰宅部)はシャツの上にパーカーとかニットとか着てる。
バレー部の久保(鈴木伸之)。オレ、こいつとは絶対友達になれねー!
バレー部・風助(太賀)。桐島が部活を辞めた穴埋め要員として急遽レギュラー入りするんですが、やはりスーパースター桐島の代打としては実力不足で、周りからは責められるし本人も重々分かってるんだけど体が追いつかないんですね。そしてどんどん自分で自分を追い込んでしまうという切ない男。
「何とかしようとしてこの程度なんだよ俺は!!」って久保に掴みかかる、このシーンがホント泣ける。
それを見ているバドミントン部・実果(清水くるみ)。彼女の亡くなった姉がバドミントンの実力者で、姉のようになりたくてバドミントンやってるんだけどなかなか追いつけないというコンプレックスがあるんです。だから彼女は、風助の「なりたい自分と現実の自分とのギャップ」に悩む気持ちが痛いほど分かるんですよね。それを言葉にしないで表現できてるのも素晴らしい。一刻も早く風助と付き合ってください!
野球部のキャプテン。ブレなさ、という点ではこの映画の中で最強のキャラでしょう。彼の名台詞「ドラフトが終わるまでは・・・」は一生忘れません。
幽霊野球部員・菊池宏樹を演じる東出昌大くんが本当に素晴らしい。
「だから結局ぅ、出来るやつは何でも出来るし、出来ないやつは何にも出来ないってだけの話だろ。」と、神と思しき勝ち組視点からの物言い。
そう言い放ってからの~
↓
振り向きざま、シュート!!
↓
なに成功してんだよ!
とまあ、こういったシーンからも分かるとおり、宏樹はいわゆる持ってる側の人間な訳です。勉強出来る、スポーツ出来る、ルックス最高、女にはモテる・・・出来杉出来蔵くんなんですね。要するに「生まれつき持ってる奴」なんです。前述の「出来るやつは何でも出来るし、出来ないやつは何にも出来ないってだけの話だろ。」って台詞も、出来過ぎちゃうからこその調子コキ発言でもあるわけ。
ところが、話が進むにつれ、宏樹はある事に気付いてしまうんです。
「あれ?俺、夢中になれる事が何にも無い・・・」と。
終盤の、宏樹がサボり続けた部活を再開しようと決意した瞬間に居場所がなくなるシーン→その後の屋上でのやりとりや表情など、切ないやらカッコイイやら美しいやらで、思わず込み上げるものがございました。こいつ良い役者になるぜ。
とまあ、ここでは書ききれないほど良いシーンの連続なんですが、ホント事件ってくらい感動したのは、やはりクライマックス。
夕方の屋上で前田君が「みんな喰い殺せ!」って指令を出して、ゾンビa.k.a映画部員どもがイケてる生徒軍に襲い掛かるシーン。
普段は温厚な前田君が「調子こいてる奴らマジぶっ殺す!」と、不条理なスクールカーストへの怒りが爆発する!
彼にとってゾンビ映画がまさに「半径1メートルのリアル」だった事が証明された瞬間ですよ。
しかもこのシーンでかかるBGMは失恋してふっきれた沢島さんが演奏するワーグナーの曲。
好きな事に一生懸命打ち込んでいる子達がついに何かを掴み取る瞬間ですよ!しかもこの屋上シーン、原作にはないくだりなんですよ。この作品の肝の部分をガッチリ捉えた本当に素晴らしいシーンだと思います。ものすごく脚本が良いんですよね。
以前KBCシネマで「桐島~」観たとき、このシーンで他のお客さん達は皆笑ってたんですよ。でも俺はそのシーンで超泣いてて、「そこ笑うとこじゃねえよ!なんで笑うんだよぉ~!」って思ってたんだけど、ふと隣を見たらスーツ姿の中年オジサンが俺よりも大号泣してたのが素敵な映画想ひ出です。
ゾンビ部 映画部のみなさんお疲れ様でした。
『桐島、部活やめるってよ』でズキューン!ときた人だけで少年自然の家みたいなトコに合宿してもいいくらい良い映画なんだよ。
この映画は序盤で学校内格差や同調圧力、そしてそれにまつわる人間関係を描きながら、桐島という不思議な存在を通して、だんだんと「全てを持ってるけど大切な何かを持ってない奴」と「何も持ってないけど大切なものはちゃんと持ってる奴」の話に帰結していくんです。
好きなものを好きでいつづける事の素晴らしさが非常に美しい形で描かれていて感動的。
ラストの「戦おう。それでもこの世界で生きていかなければならないのだから。」って台詞が猛烈に心にしみます。
つまり、これは学校の中だけの話ではないんです。人間の集まっている場所ならどこにでもある、この世界全体に通じている話なんですね。
こんだけ良いと言い続けてるのに、それでも観ないやつは馬鹿としか言いようが無い!
そう言いきれるほどの傑作です。