2011年11月5日土曜日

猿の惑星:創世記

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映画「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」オフィシャルサイト

 

おなじみ「猿の惑星」の最新アップグレード版という事で観に行ってきました。

猿の惑星というと、熱狂的なファンが多い映画シリーズとして有名であります。

まず最初に僕がどれほど猿の惑星を好きか、どれほど思い入れのある作品なのかをお話しましょう。
ハッキリ申し上げまして、普通です。


一応、これまでの猿の惑星シリーズ全5作は、ひと通り観ております。
「やっぱ第1作目が1番好きだなー」っていうくらいのきわめて平凡な思い入れしかない状態でした。

そんな割と熱量低めの状態で観にいったんですが、これがスゲーよく出来た傑作!


おそらくは第四作目の「猿の惑星・征服」が下敷きになってるんでしょう。
主人公の名前がシーザーという点や、人間達の奴隷と化した猿達が反乱を起こすというあらすじも、今回の「創世記」に近いですしね。

とはいえ、今回の「猿の惑星:創世記」は、今までの猿の惑星シリーズと違うんです。

かつての猿の惑星シリーズが、人間と猿の構図を人種差別問題のメタファーとして扱っていたのに対して、今回はそれをしなかったんですね。
これは往年の猿惑ファンからすれば許されざる改変なのかも知れませんが、僕は結構好意的に見れました。せっかく仕切りなおしで1から作るんだったら、また同じテーマで同じ事を繰り返すよりもやっぱり「今」の猿の惑星を観たいですからね。

テーマが改変されたからといって、過去作へのリスペクトが無くなった訳ではなく、登場キャラの役名やセリフ、言動などの細かな部分で過去作へのオマージュが散りばめられていました。

・シーザーの育ての親であるウィル・ロッドマン(ジェームス・フランコ)の役名は第1作目「猿の惑星」の脚本を書いたロッドマン・サーリングから。

・イジワル飼育係のドッジ・ランドン(トム・フェルトン)の役名は第1作目に登場する宇宙飛行士ドッジとランドンの2つを足したもの。

・ドッジがシーザーに仕掛ける水責めは、第1作で主人公テイラーが猿達から受けた嫌がらせと同じ。

・TVニュースや新聞記事で「イカルス号」なるスペースシャトルが発射→遭難したという報道がされる。「イカルス号」は第1作目で猿の惑星に着陸した宇宙船と同じ名前。

・クライマックスで猿達が馬に乗って移動するシーンも第1作目の序盤のシーンから。

・シーザーが屋根裏部屋で遊んでいるオモチャが自由の女神のパズル。自由の女神は第1作目を象徴するような存在ですね。

その他にも大量に過去作へのオマージュが散りばめられているみたいです。


そのさりげなさも絶妙で「どうですかお客さ~ん?ここがオマージュですよ~?」みたいな「モテキ」的ヤラしさも無く好印象でした。

 

さて、ストーリーのお話をします。


E696B0E3808CE78CBFE381AEE68391E6989FE3808D20(3)-418ff主人公はおさるさんです。名前をシーザーといいます。
アルツハイマー治療薬の動物実験によって驚異的に知能が向上した雌チンパンジーから生まれた彼。
薬によって劇的に向上した母親の知能が図らずも息子であるシーザーにも遺伝し、彼もまた人間なみの高度な知能を備えています。

 


Rise_of_the_Planet_of_the_Apes-02生まれたばかりの赤ちゃんチンパンジーだったシーザーを引き取って育てたのが、アルツハイマー治療薬を開発していた研究者・ウィル(ジェームス・フランコ)。

 

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シーザーを我が息子のように育てます。

僕、シーザーが繰り返し見せる「許可のポーズ」を気に入りすぎて真似しまくりの今日この頃です。
良い映画を観た後は文字通り猿真似したくなるのが人情。

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シーザーも彼の息子として健やかに育っていく訳ですが・・・。


どんなに高い知能を持っていようと、人間と同じように育てられようと、やはりお猿さんはお猿さんなんですね。


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「俺、今まで人間みたく育てられてきたけどさ、結局オレって人間じゃないじゃん?おさるじゃん?」
「俺って何処からやってきた何者なの?」

シーザーはその知能の高さゆえに自分の存在に疑問を感じ、アイデンティティクライシスに突入します。


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そんな中、アルツハイマーを患ったウィルの父親(ジョン・リスゴー)が痴呆ゆえの無断外出&暴走、そして案の定トラブル発生
ジョン・リスゴーのさすが超ベテラン俳優としか言いようの無い名演が非常に光っております。


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ウィルの父親を助けようとしたシーザーの行動が裏目に出て、ご近所さんを巻き込んだ傷害事件に発展。

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オラ、じっちゃんのためにがんばったのに・・・

 

20111008_1009818この事件がきっかけとなり、あわれシーザーは動物保護施設に強制収用されてしまいます。

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シーザーは悪くないのに・・・!(;_;)グスン。


今まで1人の人間同様に育てられてきたシーザーが、いきなりケモノ扱いされ、ケモノと同じ牢獄に閉じ込められちゃう訳ですから、その苦痛たるや筆舌に尽くしがたいものがあるでしょう。

みなさんも考えてみてくださいよ。
「はい、今日から君のおうちはココです」つって、一生、アニマル極まりないエテ公どもと寝食を共にする事になったら、誰だって発狂でしょ。

シーザーはまさにそういう目に遭うわけです。


シーザーに降りかかる悪夢はそれだけではありません。


20110623_987380動物保護施設の飼育員ドッジ(トム・フェルトン)の陰湿極まりない虐待です。

日頃溜まった鬱憤を、猿を虐待することで解消しているかのような非道な飼育員であります。

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猿を猿とも思わぬ言動の連続!


トム・フェルトンといえば「ハリー・ポッター」シリーズのドラコ役として有名ですね。
まさに「俺たちがムカつきたい悪役」ですよね。この悪役っぷりがもうね、ナイス悪!ナイスムカつかせ!
ハリーポッターシリーズといい、今回の猿の惑星といい、もうこの人は普段からこういう人なんじゃないかと思わせられるほどの悪役魂を見せつけてくれます。もう今後1人で街を歩けないんじゃないかと心配になるほど名悪役ですね。


このドッジにしろ、ウィルにしろ、おじいちゃんにしろ、製薬会社の社長ジェイコブス(デヴィッド・オイェロウォ)にしろ、分かりやすい善人・分かりやすい悪人・分かりやすい弱者・・・
分かりやすいキャラクターばかり出てくるんですよ。

人間キャラの立ち位置や設定があまりに分かりやすいんで、そこを薄っぺらいと感じる人もいると思うんですけど、そこは恐らく意図的なものでしょう。

あまりに強烈な個性の人間が出てきたり、あまりに人間ドラマが複雑だったりすると、猿の存在や猿にまつわるドラマが際立たないですよね。
だからこれくらいで丁度いいと思いますよ。

 

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そんなこんなでエテ公の巣窟に放り込まれて、あらん限りの虐待やイジメを受け、すっかり参っちゃうシーザー君。


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幼い頃よく遊んだこの屋根裏部屋の窓の絵を牢獄の壁に描くホームシック描写なんか素晴らしすぎて、もうやんなっちゃう。
「シーザーがかわいそう!」+「なんてよく出来た演出!」のダブルパンチで涙30%増量の号泣でしょ!

しかも後々、シーザーがその窓の絵を自ら消すことで、彼の人間に対する失望や、反乱の決意を表現するわけです。
ホントそんな演出よく考え付いたな!って感じ。

こうしてシーザーは自分を裏切り続ける人間社会に絶望していくんですが、ただ単に絶望していくわけではなくて、これまで愛情を注いでくれたウィルへの想いを断ち切れない部分もありつつ、しかし徐々に人間という身勝手な存在に失望していくっていう微妙なスタンスではあるんですね。

この微妙な微妙なシーザーの心境が実によく描かれている。

シーザーっていうのは普通の猿とは違うわけじゃないですか。
かなり人間寄りの猿なんだけど、かといって人間と同じように演じればいいって訳じゃないでしょう。
お猿さんなんだけど頭脳明晰、しかも深い苦悩と葛藤を繰り返している、でもやっぱお猿さんという、「人と猿の中間」っていう非常に難しいキャラクター設定なんですよね。

シーザーの感情の揺らぎを、セリフなし・言葉の説明なしで120%表現してみせるこの演出テクニックに驚嘆しきりです。

 

そうこうしてると今度は、「今まで言葉を使わなかったからこそ」の超エモーショナルな見せ場がやってくる訳です。

殴りかかってくるイジワル飼育員ドッジの腕をガッと掴んでからのぉ・・・

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「NO~~~~~~~~~~!!!!!」

日ごと向上していくシーザーの知能+溜まりに溜まった人間への怒りが、シーザーに「いやだーーーーー!!!!」という人間の言葉を叫ばせます。

この雄叫びの瞬間だけBGMがピタリと止まり、一瞬シーンとする演出もカタルシスを倍増させていて素晴らしい!

僕的にはこれが今年一番鳥肌モノのシーンだったかもしれません。

この瞬間、僕は「こ、この映画、お、お、おもしれえ・・・!」と、猿並みの語学力になりながら号泣ですよ!

猿が言葉を喋らないのは知能の問題というより、口腔の事情なんじゃないかという疑問は一切受け付けません!


そしてここからはシーザーの独壇場!
知能と運動能力を駆使して牢獄を脱出、まずは超おっかねーゴリラくんを仲間につけてボス猿を恫喝
一気にボス猿の座にのしあがったシーザー。

ウィルの家からこっそり盗んだアルツハイマー治療薬で、施設にいる猿たち全員の知能をUPさせ、兵士としてのポテンシャルを高めます。

クッキーを使ったイニシエーションで組織の統制を図ったり、施設内の猿たちを全員集めてのアジテーションで皆の戦意を高揚させるところも面白い!


最初は見るからに気の弱い少年のようだったシーザーの表情が、この頃にはすっかり組織のリーダーの顔になってるんです。強い信念を持った革命家の表情になんですよね。

 


そしてついに、猿達の大反乱劇へと展開していきます。

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「ワイはサルや~!」
見よ!立ち上がった猿軍団の勇姿!
それぞれのキャラクターの描き分けも素敵。


高い知能を得たサンフランシスコ猿軍団の暴動っぷり、サイコーです。

まずは動物園を襲撃してサルの檻を破壊、脱出させて味方につけて兵力UP!!
サンフランシスコの街中を所狭しと暴れまくりんぐ!

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もちろん諸悪の根源である製薬会社・ジェネシス社にも臆することなく真正面から襲撃!質より数!っていうか猿!


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シャッチョさ~ん。どないしてくれますの~?責任とってもらいまっせ~。

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何故か緊急車両をやたら目の敵にする猿軍団のみなさん。

ただ、この猿達、基本的には人を殺さないんですね。
例えば血気盛んな猿軍団の一員が人間を殺そうとすると、シーザーが割って入って「殺生はあきまへんで!」って止めに来る。
そういう所も「やむを得ない場合を除いては不殺」というシーザーの思想信条が見えて素敵ですね。
おさるさんの割に、「生きる」という基本的人権に関しては慎重派です。

収容施設の猿+動物園の猿と大雑把に見積もっても、暴動の最初と最後を比べると明らかに猿の数が増えすぎてるような気がしますが、そこはもちろん積極的に気が付かないフリしましょう!

動物園から逃がした猿達は知能が上がってないのに・・・という点も、目をつぶる事で運気UPです!!


 

そして物語は佳境。

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海の向こうに広がる森林を目指して、ゴールデンゲートブリッジを渡ろうとする猿軍団。
それを阻止すべく橋を封鎖するサンフランシスコ警察。
猪突猛進する猿軍団 VS 行く手を阻む警官隊が衝突します。

 

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ここの見せ場はやはりゴリラくんの自己犠牲的活躍。
彼は、自由を与えてくれた恩人であるシーザーのために・・・ううう・・・。
俺は生まれて初めてゴリラに泣かされましたよ。
これまでゴリラのようなおばさんに恫喝されて泣くことはあったかもしれませんが、ゴリラに感動させられて泣くとは思いませんでしたね。

そしてシーザーは完全に人間との決別を誓う行動をとるわけですね。
シーザーが初めて人を殺すんですよ。
これまで殺生を避けてきたシーザーがこの行動を取るからこそ、彼の絶望と怒りがピークに達したことが伝わってくるし、だからこそこのシーンが活きてる。
ここもホントによく出来てる展開です。

ラストでそれとなく示唆される人工的ウィルスによる人類の自滅→ウィルスに免疫のある猿中心の世界が到来・・・的なニュアンスたっぷりの描写も、続編への期待を高めてくれますね!

物語という観点から見ても、人間と動物の成長記→脱獄モノ→成り上がりストーリー→動物パニック→勧善懲悪のカタルシス→革命

っていう、娯楽映画のあらゆるテイストが織り交ぜられていて、そりゃ面白いに決まってるだろ!っていう。痛快娯楽映画でした。傑作!!

 

しかしね、よくよく考えたらですよ。

事の発端となったアルツハイマー治療薬を開発したのもウィル
製薬会社からこっそりシーザーを連れて帰ったのもウィル
シーザーの苦悩を受け止めてあげなかったのもウィル
家の冷蔵庫でズサンに管理してた治療薬を盗まれたのもウィル

 

全部ウィルのせいじゃねーか!