2011年12月30日金曜日

2011年 映画ランキング

やー、久々にブログ更新しますね。
来年こそはちゃんとブログ書きますんで、どうぞご容赦ください(スライディング土下座)!!!!!


今年2011年、僕は81本の映画を劇場で観ました。
こんだけ金払って映画観たんだから、ちょっとくらい偉そうに映画を語ってもバチは当たらないだろう!という希望的観測のもと、独断と偏見で2011年に観た映画81本を全部ランキング付けしてみました。

独断と偏見なんだから、文句言いっこなしね!
あくまでも判定基準は『俺の好み』です。
より正確にいうと『俺のワガママ』ですね。

今年は例年よりもイイ映画が多くて、あんまり駄作に出会わなかったような気がしていたんですが、それでもこうして81本全てをランキング形式にしてみると、やはりワースト10の並びなんかはある意味で夢の顔ぶれとでも申しましょうか、並んだタイトルを眺めているだけでオートマチックに半笑いになるような作品ばかりで、『俺、よく頑張ってこんな映画観たな・・・』と、感慨深いものがあります。


・・・てな訳で、DENTAK的2011年映画ランキングは以下の通りでございます。
お正月休みに観るDVDの参考にでもしてやってください。



1.キック・アス
2.宇宙人ポール
3.冷たい熱帯魚
4.トゥルー・グリット
5.ソーシャル・ネットワーク
6.ブラックスワン
7.ピラニア3D
8.ブルーバレンタイン
9.猿の惑星 創世記
10.アジョシ

11.マネーボール
12.塔の上のラプンツェル
13.X-MEN:ファースト・ジェネレーション
14.ランゴ
15.ザ・タウン
16.50/50
17.127時間
18.ザ・ファイター
19.あぜ道のダンディ
20.電人ザボーガー

21.リアルスティール
22.コンテイジョン
23.一命
24.英国王のスピーチ
25.ロビンフッド
26.ミッションインポッシブル・ゴーストプロトコル
27.SUPER 8
28.スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団
29.ミッション:8ミニッツ
30.エンディングノート

31.バーレスク
32.監督失格
33.ライフ いのちをつなぐ物語
34.ヒア アフター
35.エンジェル ウォーズ
36.くまのプーさん
37.アンストッパブル
38.トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン
39.ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える
40.恋の罪

41.カンフーパンダ2
42.キャプテンアメリカ
43.タンタンの冒険
44.モテキ
45.ゴーカイジャー ゴセイジャー スーパー戦隊199ヒーロー大決戦
46.未来を生きる君達へ
47.デュー・デート ~出産まであと5日!史上最悪のアメリカ横断~
48.カーズ2
49.ツリーオブライフ
50.インモータルズ

51.岳
52.コクリコ坂から
53.ランナウェイズ
54.八日目の蝉
55.サンクタム
56.プリキュアオールスターズDX3 未来に届け!世界をつなぐ☆虹色の花
57.アンダルシア 女神の報復
58.GANTZ
59.ガリバー旅行記
60.マイティ・ソー

61.シュレック フォーエバー
62.100,000年後の安全
63.GANTZ PERFECT ANSWER
64.世界侵略:ロサンゼルス決戦
65,カウボーイ&エイリアン
66.1911
67.あしたのジョー
68.漫才ギャング
69.ハードロマンチッカー
70.こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE ~勝どき橋を封鎖せよ!~

71.ツレがうつになりまして
72.ステキな金縛り
73.さや侍
74.スマグラー おまえの未来を運べ
75.ワイルド7
76.はやぶさ
77.プリンセストヨトミ
78.ツーリスト
79.源氏物語
80.怪物くん
81.これでいいのだ!! 映画★赤塚不二夫

2011年11月5日土曜日

猿の惑星:創世記

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映画「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」オフィシャルサイト

 

おなじみ「猿の惑星」の最新アップグレード版という事で観に行ってきました。

猿の惑星というと、熱狂的なファンが多い映画シリーズとして有名であります。

まず最初に僕がどれほど猿の惑星を好きか、どれほど思い入れのある作品なのかをお話しましょう。
ハッキリ申し上げまして、普通です。


一応、これまでの猿の惑星シリーズ全5作は、ひと通り観ております。
「やっぱ第1作目が1番好きだなー」っていうくらいのきわめて平凡な思い入れしかない状態でした。

そんな割と熱量低めの状態で観にいったんですが、これがスゲーよく出来た傑作!


おそらくは第四作目の「猿の惑星・征服」が下敷きになってるんでしょう。
主人公の名前がシーザーという点や、人間達の奴隷と化した猿達が反乱を起こすというあらすじも、今回の「創世記」に近いですしね。

とはいえ、今回の「猿の惑星:創世記」は、今までの猿の惑星シリーズと違うんです。

かつての猿の惑星シリーズが、人間と猿の構図を人種差別問題のメタファーとして扱っていたのに対して、今回はそれをしなかったんですね。
これは往年の猿惑ファンからすれば許されざる改変なのかも知れませんが、僕は結構好意的に見れました。せっかく仕切りなおしで1から作るんだったら、また同じテーマで同じ事を繰り返すよりもやっぱり「今」の猿の惑星を観たいですからね。

テーマが改変されたからといって、過去作へのリスペクトが無くなった訳ではなく、登場キャラの役名やセリフ、言動などの細かな部分で過去作へのオマージュが散りばめられていました。

・シーザーの育ての親であるウィル・ロッドマン(ジェームス・フランコ)の役名は第1作目「猿の惑星」の脚本を書いたロッドマン・サーリングから。

・イジワル飼育係のドッジ・ランドン(トム・フェルトン)の役名は第1作目に登場する宇宙飛行士ドッジとランドンの2つを足したもの。

・ドッジがシーザーに仕掛ける水責めは、第1作で主人公テイラーが猿達から受けた嫌がらせと同じ。

・TVニュースや新聞記事で「イカルス号」なるスペースシャトルが発射→遭難したという報道がされる。「イカルス号」は第1作目で猿の惑星に着陸した宇宙船と同じ名前。

・クライマックスで猿達が馬に乗って移動するシーンも第1作目の序盤のシーンから。

・シーザーが屋根裏部屋で遊んでいるオモチャが自由の女神のパズル。自由の女神は第1作目を象徴するような存在ですね。

その他にも大量に過去作へのオマージュが散りばめられているみたいです。


そのさりげなさも絶妙で「どうですかお客さ~ん?ここがオマージュですよ~?」みたいな「モテキ」的ヤラしさも無く好印象でした。

 

さて、ストーリーのお話をします。


E696B0E3808CE78CBFE381AEE68391E6989FE3808D20(3)-418ff主人公はおさるさんです。名前をシーザーといいます。
アルツハイマー治療薬の動物実験によって驚異的に知能が向上した雌チンパンジーから生まれた彼。
薬によって劇的に向上した母親の知能が図らずも息子であるシーザーにも遺伝し、彼もまた人間なみの高度な知能を備えています。

 


Rise_of_the_Planet_of_the_Apes-02生まれたばかりの赤ちゃんチンパンジーだったシーザーを引き取って育てたのが、アルツハイマー治療薬を開発していた研究者・ウィル(ジェームス・フランコ)。

 

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シーザーを我が息子のように育てます。

僕、シーザーが繰り返し見せる「許可のポーズ」を気に入りすぎて真似しまくりの今日この頃です。
良い映画を観た後は文字通り猿真似したくなるのが人情。

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シーザーも彼の息子として健やかに育っていく訳ですが・・・。


どんなに高い知能を持っていようと、人間と同じように育てられようと、やはりお猿さんはお猿さんなんですね。


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「俺、今まで人間みたく育てられてきたけどさ、結局オレって人間じゃないじゃん?おさるじゃん?」
「俺って何処からやってきた何者なの?」

シーザーはその知能の高さゆえに自分の存在に疑問を感じ、アイデンティティクライシスに突入します。


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そんな中、アルツハイマーを患ったウィルの父親(ジョン・リスゴー)が痴呆ゆえの無断外出&暴走、そして案の定トラブル発生
ジョン・リスゴーのさすが超ベテラン俳優としか言いようの無い名演が非常に光っております。


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ウィルの父親を助けようとしたシーザーの行動が裏目に出て、ご近所さんを巻き込んだ傷害事件に発展。

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オラ、じっちゃんのためにがんばったのに・・・

 

20111008_1009818この事件がきっかけとなり、あわれシーザーは動物保護施設に強制収用されてしまいます。

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シーザーは悪くないのに・・・!(;_;)グスン。


今まで1人の人間同様に育てられてきたシーザーが、いきなりケモノ扱いされ、ケモノと同じ牢獄に閉じ込められちゃう訳ですから、その苦痛たるや筆舌に尽くしがたいものがあるでしょう。

みなさんも考えてみてくださいよ。
「はい、今日から君のおうちはココです」つって、一生、アニマル極まりないエテ公どもと寝食を共にする事になったら、誰だって発狂でしょ。

シーザーはまさにそういう目に遭うわけです。


シーザーに降りかかる悪夢はそれだけではありません。


20110623_987380動物保護施設の飼育員ドッジ(トム・フェルトン)の陰湿極まりない虐待です。

日頃溜まった鬱憤を、猿を虐待することで解消しているかのような非道な飼育員であります。

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猿を猿とも思わぬ言動の連続!


トム・フェルトンといえば「ハリー・ポッター」シリーズのドラコ役として有名ですね。
まさに「俺たちがムカつきたい悪役」ですよね。この悪役っぷりがもうね、ナイス悪!ナイスムカつかせ!
ハリーポッターシリーズといい、今回の猿の惑星といい、もうこの人は普段からこういう人なんじゃないかと思わせられるほどの悪役魂を見せつけてくれます。もう今後1人で街を歩けないんじゃないかと心配になるほど名悪役ですね。


このドッジにしろ、ウィルにしろ、おじいちゃんにしろ、製薬会社の社長ジェイコブス(デヴィッド・オイェロウォ)にしろ、分かりやすい善人・分かりやすい悪人・分かりやすい弱者・・・
分かりやすいキャラクターばかり出てくるんですよ。

人間キャラの立ち位置や設定があまりに分かりやすいんで、そこを薄っぺらいと感じる人もいると思うんですけど、そこは恐らく意図的なものでしょう。

あまりに強烈な個性の人間が出てきたり、あまりに人間ドラマが複雑だったりすると、猿の存在や猿にまつわるドラマが際立たないですよね。
だからこれくらいで丁度いいと思いますよ。

 

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そんなこんなでエテ公の巣窟に放り込まれて、あらん限りの虐待やイジメを受け、すっかり参っちゃうシーザー君。


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幼い頃よく遊んだこの屋根裏部屋の窓の絵を牢獄の壁に描くホームシック描写なんか素晴らしすぎて、もうやんなっちゃう。
「シーザーがかわいそう!」+「なんてよく出来た演出!」のダブルパンチで涙30%増量の号泣でしょ!

しかも後々、シーザーがその窓の絵を自ら消すことで、彼の人間に対する失望や、反乱の決意を表現するわけです。
ホントそんな演出よく考え付いたな!って感じ。

こうしてシーザーは自分を裏切り続ける人間社会に絶望していくんですが、ただ単に絶望していくわけではなくて、これまで愛情を注いでくれたウィルへの想いを断ち切れない部分もありつつ、しかし徐々に人間という身勝手な存在に失望していくっていう微妙なスタンスではあるんですね。

この微妙な微妙なシーザーの心境が実によく描かれている。

シーザーっていうのは普通の猿とは違うわけじゃないですか。
かなり人間寄りの猿なんだけど、かといって人間と同じように演じればいいって訳じゃないでしょう。
お猿さんなんだけど頭脳明晰、しかも深い苦悩と葛藤を繰り返している、でもやっぱお猿さんという、「人と猿の中間」っていう非常に難しいキャラクター設定なんですよね。

シーザーの感情の揺らぎを、セリフなし・言葉の説明なしで120%表現してみせるこの演出テクニックに驚嘆しきりです。

 

そうこうしてると今度は、「今まで言葉を使わなかったからこそ」の超エモーショナルな見せ場がやってくる訳です。

殴りかかってくるイジワル飼育員ドッジの腕をガッと掴んでからのぉ・・・

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「NO~~~~~~~~~~!!!!!」

日ごと向上していくシーザーの知能+溜まりに溜まった人間への怒りが、シーザーに「いやだーーーーー!!!!」という人間の言葉を叫ばせます。

この雄叫びの瞬間だけBGMがピタリと止まり、一瞬シーンとする演出もカタルシスを倍増させていて素晴らしい!

僕的にはこれが今年一番鳥肌モノのシーンだったかもしれません。

この瞬間、僕は「こ、この映画、お、お、おもしれえ・・・!」と、猿並みの語学力になりながら号泣ですよ!

猿が言葉を喋らないのは知能の問題というより、口腔の事情なんじゃないかという疑問は一切受け付けません!


そしてここからはシーザーの独壇場!
知能と運動能力を駆使して牢獄を脱出、まずは超おっかねーゴリラくんを仲間につけてボス猿を恫喝
一気にボス猿の座にのしあがったシーザー。

ウィルの家からこっそり盗んだアルツハイマー治療薬で、施設にいる猿たち全員の知能をUPさせ、兵士としてのポテンシャルを高めます。

クッキーを使ったイニシエーションで組織の統制を図ったり、施設内の猿たちを全員集めてのアジテーションで皆の戦意を高揚させるところも面白い!


最初は見るからに気の弱い少年のようだったシーザーの表情が、この頃にはすっかり組織のリーダーの顔になってるんです。強い信念を持った革命家の表情になんですよね。

 


そしてついに、猿達の大反乱劇へと展開していきます。

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「ワイはサルや~!」
見よ!立ち上がった猿軍団の勇姿!
それぞれのキャラクターの描き分けも素敵。


高い知能を得たサンフランシスコ猿軍団の暴動っぷり、サイコーです。

まずは動物園を襲撃してサルの檻を破壊、脱出させて味方につけて兵力UP!!
サンフランシスコの街中を所狭しと暴れまくりんぐ!

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もちろん諸悪の根源である製薬会社・ジェネシス社にも臆することなく真正面から襲撃!質より数!っていうか猿!


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シャッチョさ~ん。どないしてくれますの~?責任とってもらいまっせ~。

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何故か緊急車両をやたら目の敵にする猿軍団のみなさん。

ただ、この猿達、基本的には人を殺さないんですね。
例えば血気盛んな猿軍団の一員が人間を殺そうとすると、シーザーが割って入って「殺生はあきまへんで!」って止めに来る。
そういう所も「やむを得ない場合を除いては不殺」というシーザーの思想信条が見えて素敵ですね。
おさるさんの割に、「生きる」という基本的人権に関しては慎重派です。

収容施設の猿+動物園の猿と大雑把に見積もっても、暴動の最初と最後を比べると明らかに猿の数が増えすぎてるような気がしますが、そこはもちろん積極的に気が付かないフリしましょう!

動物園から逃がした猿達は知能が上がってないのに・・・という点も、目をつぶる事で運気UPです!!


 

そして物語は佳境。

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海の向こうに広がる森林を目指して、ゴールデンゲートブリッジを渡ろうとする猿軍団。
それを阻止すべく橋を封鎖するサンフランシスコ警察。
猪突猛進する猿軍団 VS 行く手を阻む警官隊が衝突します。

 

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ここの見せ場はやはりゴリラくんの自己犠牲的活躍。
彼は、自由を与えてくれた恩人であるシーザーのために・・・ううう・・・。
俺は生まれて初めてゴリラに泣かされましたよ。
これまでゴリラのようなおばさんに恫喝されて泣くことはあったかもしれませんが、ゴリラに感動させられて泣くとは思いませんでしたね。

そしてシーザーは完全に人間との決別を誓う行動をとるわけですね。
シーザーが初めて人を殺すんですよ。
これまで殺生を避けてきたシーザーがこの行動を取るからこそ、彼の絶望と怒りがピークに達したことが伝わってくるし、だからこそこのシーンが活きてる。
ここもホントによく出来てる展開です。

ラストでそれとなく示唆される人工的ウィルスによる人類の自滅→ウィルスに免疫のある猿中心の世界が到来・・・的なニュアンスたっぷりの描写も、続編への期待を高めてくれますね!

物語という観点から見ても、人間と動物の成長記→脱獄モノ→成り上がりストーリー→動物パニック→勧善懲悪のカタルシス→革命

っていう、娯楽映画のあらゆるテイストが織り交ぜられていて、そりゃ面白いに決まってるだろ!っていう。痛快娯楽映画でした。傑作!!

 

しかしね、よくよく考えたらですよ。

事の発端となったアルツハイマー治療薬を開発したのもウィル
製薬会社からこっそりシーザーを連れて帰ったのもウィル
シーザーの苦悩を受け止めてあげなかったのもウィル
家の冷蔵庫でズサンに管理してた治療薬を盗まれたのもウィル

 

全部ウィルのせいじゃねーか!

2011年10月24日月曜日

監督失格

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映画『監督失格』オフィシャルサイト

 

平野勝之というAV監督がいました。
彼は80年代~90年代にかけて活躍したAV監督で、V&RプランニングというAVメーカーで数々のオモロイけどヌケない名作AVを生み出した異色のAV監督としてその名を馳せました。

林由美香というAV女優がいました。大きな瞳の正統派美少女でありながらハードな絡みもガンガンやっちゃうギャップがウケて、たちまちAV界のトップアイドルの座に君臨しました。

2人は不倫関係にありました。

そんな2人が東京から北海道までの自転車旅行に挑戦。kantoku420110905183851

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過酷を極めたその旅の一部始終が平野監督によって撮影され、「わくわく不倫旅行」なるAV作品として発表され話題となります。

その後、平野監督が由美香にフラレるという形で2人のイケない恋愛関係は終了。

平野監督はショックでロクな作品が作れなくなってしまいます。

いつまでも引きずってても仕方ない!と、なんとか立ち直ろうと思った平野監督は、もう一度だけ由美香に会って何か新しい作品を撮ろうとします。

しかし、そんな平野監督を待ち構えていたのは、由美香の突然の死でした。

 

 

僕がこの平野監督と林由美香という2人の存在を知ったのは高校生の時。
当時テレビ朝日系列で放送されていた深夜番組「トゥナイト2」で知ったんですね。
当時は「トゥナイト2」なんて信憑性に問題のあるトレンド情報をお届けする番組だという認識しかなかったんですが、今にしてみれば意外とサブカル情報満載だったんですね。

 

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僕はAV女優としての林由美香の活躍ぶりをリアルタイムでは殆ど知りません。
なにせ彼女が現役でバリバリやってた当時、僕は中高生だったので。

僕より5~10歳くらい上の世代の男性諸氏の右手のアイドルじゃないですかね?
僕らの世代でいうと小室友里みたいな位置だったのかな~?と思います。意識的かつ能動的にAV女優をやっていて、「面白い作品を作るためなら何でもやる」っていう作り手側の視点まで持ったようなスター女優っていう感じ。

仮に僕がリアルタイムで林由美香のAV嬢時代を知っていたとしても、彼女は貧乳なので僕の射精射程範囲外だったと思います。

 

さて、このドキュメンタリー映画『監督失格』ですが、福岡では天神東宝1館のみの上映ということで、はるばる行って参りました。初日の10月1日(土)の夕方の回。映画の日・しかも週末ということもあって映画館にお客さんが多かったんですが、その殆どがちょうど同時刻に上映されてた「モテキ」の上映スクリーンに吸い込まれていくという現実も目撃しました。


そんなことはさておき、映画の話に戻ります。

 

前半は1997年に劇場公開された「由美香」のダイジェスト的内容になっています。

平野監督と林由美香、不倫関係にある2人が1ヶ月かけて東京~北海道まで自転車で旅するというもの。

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林由美香と平野監督の関係について何ら予備知識の無い人でも、2人のどうかしてる関係がつぶさに見て取れると思います。

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平野監督や林由美香の魅力とダメさ加減が過不足無く詰まっている見事な編集でした。

由美香の魅力的な表情や仕草、キュートさと天真爛漫さ、それに惹かれていく平野勝之のダメさだったり面倒くさい所 etc・・・ がギュッと濃縮されており、上手く編集してあります。
非常に丁寧なダイジェストだな、という印象を受けました。

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林由美香がカメラ意識したり、何かに媚びたりせず、極めて自然にキュートなところがホント素晴らしい。

でも、それだけではないんですね。
不倫関係にある2人が1ヶ月かけて北海道まで自転車で旅してそれが世に公開されるなんて倫理的に完全アウトなんですが、にもかかわらず思わず行動に移しちゃった2人の旅の記録そのものが非常に面白いんです。
「イケナイ事の魅力に惹かれていってる人たちの思い」だったり「正しさを超えた欲望を見つけちゃった人たちの生き方」がわかりやすく編集されていてとても良かったです。

印象的だったのは、平野監督にカメラを渡された林由美香が1人で撮影するシーンが少しだけあるんですが、彼女がカメラを持つと一気に彼女独特の映像になるんですよ。本人は上手く撮ろうなんて意識は全くないし鼻歌なんか歌ってイイ気なもんなんですが、画面は完全に由美香色になってるんです。表現の神様に選ばれたような女の子だな~って思いました。

なんてったって彼女は監督に向かって「監督失格ね」って言えちゃうAV女優ですからね。


ちなみに元の「由美香」という作品は元はAVだったものが、後年に劇場用作品として公開されたもの。
AVといってもかなりエグイ部類です。カップラーメンにウンコを入れて食ってゲロ吐いてぶっ倒れるなど非常にエレガントなシーンもあるので、普通の人は掘り返してまで観なくていいと思います(笑)。

それでも「お金を払ってでも観たい!」という物好きな方はコチラからご覧になれます。

 

 

その後、舞台は一気に2005年へと移ります。


30歳を過ぎてからの林由美香の様子も非常に興味深かったですね。

なんだか恋愛至上主義的というか、恋愛や結婚への意識の高さが異常なんですよね。
しかも、自分のことだけを見ていてくれる完全無欠の王子様みたいな男性を求めている。
35歳にもなろうかって女が彼氏の携帯をチェックするとか、それどうなんだ?っていう(笑)。

とにかく誰かに目いっぱい愛されたくて仕方ない人なんだろうなと思いました。
それが「面白い作品になるなら何だってやる」っていう彼女の女優としての姿勢とも繋がってるんでしょうね。

 

その後、平野監督は由美香の35歳の誕生日に彼女と会って撮影をする約束をします。
しかし、待てど暮らせど彼女は待ち合わせ場所に姿を現さない。なんど電話をかけても繋がらず、一切連絡もとれない。
彼女は絶対に仕事をすっぽかすような女優じゃない。これはオカシイ!という事になり、急遽由美香ママを呼んで合鍵を使って由美香の自宅に入ることに。


この由美香の自宅に突入する場面の緊張感がハンパじゃないんですよ。
こっちとしてはこの先に待ち構えている悲劇を知ってるわけですからね。もう見てらんないよ!って思いながらも視線はスクリーンに釘付けっていう状態でした。

そして由美香の自宅で変わり果てた彼女の姿を最初に発見してしまう平野監督。
一瞬で事態を把握した由美香ママの激しい慟哭。
その一部始終を偶然にもカメラが捉えているんです。
この一連のシーンはどんな言葉で表現しても安っぽく感じられるほど壮絶。

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悲報を受けて現場に駆けつけたカンパニー松尾氏の視点も彼独特の語り口があって切ない。


 

そしてなによりこの映画が傑作となった理由の1つに、由美香ママの魅力を引き出せてる点にあると思います。
彼女の優しさと強さ、最愛の娘を失った寂しさ、それを自分なりに乗り越えようとしている様子が短い映像の中にもキッチリ収められているんですよね。

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見てくださいよ、この由美香ママの写真。
気をつけて下さいね、パパじゃないですよ、ママですよ。
シャツインでベルトが腰のやたら高い位置にあるところとか、胸ポケットのボールペンなんかグッとくるんですよね。
女性が見た目よりも機能性を重視したファッションになったときの味わい深さは格別なものがありますね。


 

最後、エンドクレジットで矢野顕子の「しあわせな、バカタレ」って曲が流れるんですが、これがこの救い無き物語に光を与えてくれるいい効果をもたらしてくれています。。
この曲なしで映画を観ただけではただ心に鋭く深い爪痕が残っただけになったと思うんですね。
でも最後にこの曲がかかる事で「でも、それでいいんだよ。仕方ないことだよ。」つって悲痛な気持ちをほぐしてくれる。音楽が僕達の肩にそっと手を置いてくれるんです。
このエンディング曲があるのと無いのでは大きく違う印象だったでしょうね。


終盤、この「監督失格」の編集作業に取りかかっている平野監督がカメラに向かって「たった今気付きました。由美香が僕に取り憑いてるんじゃなく、僕が由美香に執着していたんだ。」と独白するシーン。

僕はびっくりしました。この人、そんな事も分かってなかったのかと。第三者の僕には最初からそうとしか見えてなかったから。
その完全に自分を客観視出来なくなっていたんだという事が凄く興味深かったです。

だからその後の平野監督が嗚咽と絶叫を繰り返しながら自転車で爆走するシーンは、その異様さに思わず苦笑しながらも得体の知れぬシンパシーを感じました。

 

「最愛の人が死ぬ」という経験。
これは誰にだってやってくる事なんですよね。
もしかしたらそれが明日やってくるかもしれない。

それでも僕達は誰かを愛して生きていくしかないんですね。悲しみに怯えていては誰かを愛したりなんか出来ないから。

愛なんて錯覚にすぎないのは分かっているけれど、それでも構わないと思います。
バカタレであっても幸せに生きていけるんなら、それは素敵な事じゃないですか。

だから自分や恋人がバカタレなりの幸せを感じられている間に、相手にちゃんと想いを伝えておいた方がいいですね。

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恋人・平野勝之が回すカメラに向かって「幸せだよ。」とささやくその表情を思い返しながら、そんなことを考えました。

 

 

いくつか物足りなかった点もありました。

まず1つに由美香が亡くなって以降の平野監督の喪失感や苦悩があまり描写されていなかったこと。ほとんどテロップで淡々と説明されちゃうんですよね。そりゃ好きな女が死んだら誰でも悲しいのは分かるけどさ。具体的にどう悲しんだのか、どんな思いでいたのかぐらい独り語りでもいいから教えてくれたってイイじゃないの、と。

 

そして何より不満が残ったのは、不倫された側である平野監督の奥さんがこの映画の中では完全不在なんですよね。

奥さんが平野監督と由美香の関係をどう思っていたのか、ちゃんと取材して撮るべきだったと思います。そうでないと、単に都合良く自己陶酔して切なくなってる男の話になっちゃうじゃないですか。

自己陶酔でも全然イイんですけど、「自分と向き合ったうえでの自己陶酔」と、そうでない自己陶酔では、質が全然違うと思うんですよね。
さらけだすんだったら、都合の悪い部分もキッチリ全部さらけだすような潔さが欲しかったな、と。

前述した過去作品「由美香」の中では平野監督の奥さんが登場して、「AV監督の旦那の仕事だから」と2人の関係を割り切って公認していました。
結婚してるんだからダンナの不倫をそんなアッサリ割り切れる訳ないんだけど、でもきちんとダンナのやりたい事を理解して協力してあげてるという尋常ならざる人間力を持った奥さんなんですよね。

聞くところによれば、奥さんとは3年前に離婚されたそうです。
ということは、林由美香が亡くなってから3年間も婚姻状態にあったって事ですよね。ますます奥さんの心境がどういうものだったのか気になります。

ここは絶対に作品の中に入れるべきだったと思います。

 

とはいえ、メッセージ性という点においてこの作品に曇りがあるかというと全くそんな事はありません。

平野監督の真っ直ぐな愛情・ひたむきさ・優しさ・ひとりよがりの言動・自分勝手な恋愛感情・自己都合的な感情の起伏。

そして母と娘の掛け値なしの関係性。また、その関係を築くことが出来るまでの2人にとって遠く険しい道のり。

「愛」の綺麗な部分も汚い部分も、見たい部分も見たくない部分も、全て映し出されているから作品に説得力があるんですね。


この映画には、作り手が全力で投げかけてくるメッセージを観客は否応なく受け取らざるを得ないような凄みがあり、平野監督の心の荷物の一部を観客も背負わされてしまうような強烈な訴求力のある作品になっています。


人が生きるということ・死ぬということ・誰かを愛するという事・そしてそれを失うという事・・・僕らが生きるうえで必ず避けては通れない喜びや悲しみについて深く深く黙考させられる素晴らしい作品ですので、是非映画館に足を運んで目撃者になっていただきたいと思う次第でござんした。

おしまい。